蒸機公演クロックワークメモリー……大変、大変に素晴らしいものを見せていただきました。

モバマスをやっていない方に説明すると、蒸機公演クロックワークメモリーはMobage版アイドルマスターシンデレラガールズ(デレステじゃない方)のゲーム内イベントです。
やること自体はいつものポチポチゲーなんですが、シンデレラガールズのアイドルが主演するドラマという体で毎日少しずつ更新される短いシナリオがあり、サブシナリオも含めて8日のイベント期間でそのシナリオが完成します。

毎回色んなドラマがあるのですが、今回はモバゲー版デレマスのイベントでもおそらく最高峰のシナリオ(※)ではなかったかと。
※ドリーム・ステアウェイも比肩する傑作ですがこちらはエイプリルフール企画でした
これほどのシナリオは年に1回お目にかかれるかどうかというレベル。
そもそも、デレステに比べるとあまり話題にならなくなったモバマスにおいて、大勢のプレイヤーが毎日22時に更新されるシナリオを見るために待機し、そのたびにTwitterトレンドに「蒸機公演」の名前が入るということ自体が、とんでもない異常事態だったんですよ!

さあ、もし蒸機公演を知らず興味の出た方はここでページを閉じてください。ここから先はネタバレ全開です。
「そうは言っても、もうイベント終わっちゃったんでしょ?」という人。心配ご無用です!(本田)
モバマスはスターエンブレムを消費することで過去のイベントを閲覧することができます。
もちろん、蒸機公演とともに1週間を駆け抜けたプロデューサーのライブ感は味わえませんが……これを気にモバマスにも目を向けてもらえれば嬉しいかなと。

それでは本題へ。




以下は個人的蒸機公演ED曲、つぼみを聴きながらどうぞ。



●スチームパンク+ポストアポカリプス
今作をジャンル付けるならスチームパンク+ポストアポカリプス(ディストピア)ものでしょう。
ポストアポカリプスとディストピアは非常に相性が良いので一緒にされることが多いです。
最初にディストピアであることは明言されますが、外の世界がどうなっているかは説明されません。
描かれていないことによって「外の世界は美しい自然が待っている」OR「外の世界は最終戦争で滅んでました」の2通りのオチは誰しもが思いつくところ。
蒸機公演はまずここを踏まえた上で超えてきた。
主人公であるヨーコは、実は「外の世界がどうなっているかその目で見て知っている」という一捻り。
『だからこそ』オートマトンのヤスハが必要で、レジスタンス仲間のはずのナオの同行には難色を示した。これらの伏線の意味が中盤で明かされ、世界観が爆発的に広がったと思います。

●ヨーコの罪
ヨーコはもともと蒸貴官として人類を統制する立場だった。
しかし外を夢見た彼女は、その夢を応援してくれる後輩のユカに後を託して出奔した。
――それがユカにどのような結果をもたらすのかを知っていたにも関わらず。
この設定は読んでて驚愕しました。セントラル・エンジンに洗脳されることを知らなかった、としてもよかったのに、あえて主人公に罪を着せる。
そのことで、ヨーコの夢の大きさと憧れの強さ、そして罪深さを際立たせる。
絶望とともに戻ってきたヨーコは最下層へと落ちるが、そこでもナオを育て、外の世界のことを夢見させてしまった。真実は隠したまま。
忘れさえしなければ、きっといつか人類は外の世界で住めるようになるから。そのために、憧れさえも利用した。
そしてついにオートマトンのヤスハを手に入れる。外の世界を浄化するという目的に利用するために、彼女を修理した。
もうさ、これを思いついたライターが怖い。怖すぎるよ。
でもヨーコ自身は決して冷酷な性格じゃない。彼女も自分の命を賭けて戦った。だから憎めない。

●ヨーコの罰
最後の戦いを見届けたヨーコに待っていたのは、ヤスハとの別れ。
地上で死ぬつもりだったヨーコは、地下に戻って生きるようヤスハに押し止められます。
安易に死ぬことを選ばせてもらえず、最後まで精一杯生きること。それこそが、ヨーコに与えられた罰だったのではないかという気がします。
そこで重要になるのが斉藤洋子というキャラクターの話。
彼女は健康を趣味としており、スポーツのためのスポーツではなく健康のためにスポーツをやるタイプです。
そんな子があえて真逆の健康を犠牲にするような役をやること、それ自体がすでにエモいのですが、最後には一秒でも長く健康に生きるという約束をヤスハと交わす……ここで一気に、全ての感情がどっと洗い流されるようなエモさの奔流に投げ出されたわけですね。
エモさが反転して倍のエモさになる、みたいな。(意味不明)
「ヨーコ」は「斉藤洋子」とうキャラクターをしっかり深掘りして設定を決められていることが伺えます。

キャラクターの性格ということで少し話は変わりまして、洋子さん実は20歳の大人組なのですが、キャラクターの性格もありこれまではあまりお姉さんという立場で描かれることはありませんでした。
しかし今回メインキャストの中では一番の年長者として、作中でも「先輩」「師匠」「マスター」という先達としてのあり方で描かれています。その辺りも白眉なのかなと。

●セントラル・エンジン
ディストピアものではセントラル・エンジンのような管理体制側というのは概ね独善的な思考により人類を統制する『悪役』になりがちですが、彼らには彼らなりの理由がありました。
絶滅の危機に瀕した人類をなんとしても、絶対に保護するという役目が。
思想燻蒸も、最初は地下で暮らすことを余儀なくされた人類が辛い現実や地上世界の思い出を忘れるために編み出した技術なのかもしれない……というのが私の考察。
ヨーコも、レジスタンスも、セントラル・エンジンも、みんな自分の大切なもののために戦った。
こういう真の悪役がいない構造、私にとっては絶対に泣いちゃうポイントです……。

●スチーム=テとカラ=テ
スチームパンクだけでデザインとしては完成するのに、ここでオリジナル拳法要素が入ってきたのがユニーク。
作中では具体的にどんなものかは描写されていませんが(というかモバマスでこの手の描写が設定も含めてちゃんと説明されることは稀)、制限の強いソシャゲのテキストにおいて分量の削減は重要です。それをいかに想像の余地というプラス要素に転換できるかが、ライターの力量でしょう。
"空"という言葉が検閲されてしまったために空手が『=テ』になったという考察を見ましたが面白いですね。
スチームも"気体"="空気"を連想させる言葉なので、もし空手→『スチーム=テ』だったらなんだかダジャレっぽい気もしますが(笑)
しかし最後に、ユカは全てが失われた世界で『カラ=テ』の極意に達します。
セントラル・エンジンの加護も、支配もない。ユカ本来の記憶と感情のはざまで。
空手の名前の由来には諸説ありますが、色即是空の"空"を表すという考え方もあるようです。
まさかスチームパンクの世界観で中野有香の特技が最大限にその真価を発揮するなんて、誰が想像できたでしょうか……。

●フフフ・フフフー
たった一人で大地を緑に戻すために働き続けたヤスハ……まるで某□が出した傑作RPGのロボみたいですねとか言ってはいけない(笑)
しかし私達が見ていた一連の物語が「ヤスハの再生しているメモリー」すなわちクロックワークメモリーであったことが最後に分かります。
何度も何度も、ヤスハはこの大切な記憶を呼び戻していたのでしょう。
たった一人で千年待ち続けるのはいかほどの孤独であったか……いかに体が頑丈でも、心を持ってしまったロボットが辛くないはずがないんです。
もうヨーコに再会できないのは分かっている。それでも、彼女の夢は自分の夢だから。
想像を絶するほどの献身ですよね……言葉にするのも憚られるほどの。
その果てに、いかにして再び蒸気都市に戻ったのかは不明ですが、活動限界を迎えたヤスハを抱えて都市に戻ることができる人物に1人だけ心当たりがあるはずです。
あの絶望的な地上に臆することなく足を踏み出した冒険家が。

●クロックワークメモリー
ヤスハはヨーコの子孫によって復活を遂げ、そしてヨーコの人格と記憶を残したエゴチップと融合します。
これが『もう1つのクロックワークメモリー』
ヤスハが何度も思い出していた記憶、そしてヨーコの魂を封じ込めたエゴチップ。この2つが、タイトルに込められた意味、想い。
「地上には花が満ち、草原には安らかな顔で活動を停止したヤスハが――」みたいなエンディングもありきたりだけど、別にアリじゃないですか。
でもそんな結末で終わらせなかった。ヨーコとヤスハをまた会わせてくれた。それだけじゃない、2人は今度こそ一緒に外の世界を旅できるんだ……!!
こんな打者一巡ホームラン連発大逆転みたいな奇蹟のエンディング、本当にありがとうとしか言いようがない。
もちろん、ヤスハとヨーコや外の世界のことを千年後の人類が忘れないように残してくれたユカとナオのことも忘れてはいけない。
かの「オカエリナサヰ」を彷彿とさせる、膨大な時間の裏に隠された記憶のドラマです。
やはり物語は幸せな結末であればあるほどよい。感情的に入れ込みまくった主人公が報われてちゃんと幸せになることほど、素敵なことはない。
今でも胸いっぱいに想いが詰まります。

●シンデレラガールズの真価
ひょっとしたら、シンデレラガールズを詳しく知らない人には「それで、蒸機公演の主演を務めた洋子と泰葉のCVは誰なの?」と思われる方がいるかもしれない。
何を隠そう、この2人には未だにボイスがないのだ。
総選挙の結果は、酷い言い方をすれば奈緒や友香の足元にさえも及ばない。
悲しいが、これは(1週間前までの)事実だ。
でも、だからこそ希望がある。シンデレラガールズはまだ魅力的なキャラクターがたくさん眠っている金鉱だ。
キャラクターの魅力を活かすことができれば、これほどのものが作れるんだぞと証明できた。
ボイスなしのキャラクターをででんとメインに据えられるのはモバマスならではである。ヨーコとヤスハ、2人のキャラクター性をふまえた最高の配役そして最高のシナリオを作り上げた運営には感謝しかない。
そしてもちろんデレステにはデレステにしかできないことがある。モバマスとデレステは両翼なのだ。

●そして野望
SideM君は人気イベントのドラマCD(過去編)出してそのゲーム内イベントもやって、さらに未来編もやるらしいじゃないですか。

やりましょう。

やりましょうよ蒸機公演!

書籍化や漫画化はすぐできるでしょう。
そして――ドラマCDを!もちろん、それに伴って斉藤洋子と岡崎泰葉のボイス化を!
もしモバマス内のイベントで人気が高じてボイスが付くなんてことになったら……それはシンデレラガールさえも上回る栄誉ではないでしょうか。
そしてクロックワークメモリーを再演という形で……無理な過去編や未来編にはこだわりませんが、蒸貴官時代のヨーコや、世界を旅するヨーコとヤスハなど妄想の余地があるのは本当に素晴らしいこと。
そしてもしもですよ?万が一ドラマCDでボイス化したりしたら……そのまま億が一デレステでイベント開催して2人で歌ったりとか……しませんかね?ね?
とりあえず運営に感動のお便りを送って、ドラマCD化を具申してきます。野望は止まらない(笑)

聖蒸気よ永遠なれ!それでは!